フランスに農事功労賞という顕彰制度があります。様々な農業関係者と共に料理人も顕彰の対象になっています。
フランス国内の料理人だけではなく、フランス国外のフランス料理のシェフも受賞の資格があり、日本のフランス料理人で受賞している人もいます。農水省と料理というと、今までの感覚では、何故と思いがちですが、農林水産物の消費は主として食べることによってなされる訳で、農水省が生産だけではなく、消費にまで視野を拡げれば、当然、料理とか料理人も業務範囲に入ってくる訳です。
日本では料理というと食品衛生等の観点から厚生労働省、学校給食、食育の関連から文部科学省等が関わることが多かったのですが、食材を所管する農水省が主として業務を担当することは、むしろ、当然のことなのです。今まで、農水省の関心がもっぱら生産者に向かっていたことは、歴史的経緯からやむを得なかったのかもしれませんが、成熟先進国になった日本で、農水省の視野が消費者まで、料理と料理人まで拡がることは自然な成り行きなのでしょう。
この意味で、今回、料理人顕彰制度が発足したことは誠に意義深いことだと思われます。今、日本料理、あるいは、日本の料理人は世界的に注目されています。日本料理や日本の食材の素晴らしさが、次第に、世界的に認められるようになってきたのです。「森と水」の国、日本は世界有数の環境大国です。森、河川、海、日本ほど自然が豊かで四季折々の食材に恵まれた国は世界でもめずらしい存在です。最近の調査でも、日本の海産物の数と多様性は世界一だとされています。
当然のことながら、自然と食材に恵まれた日本の料理は、日本料理だけではなく、フランス料理もイタリア料理も大変質の高いものになっています。優れた料理人を表彰することで、日本の食生活はますます磨きのかかった充実したものになっていくことでしょう。
審査委員長 青山学院大学教授 榊原 英資 |